静岡県駿東郡長泉町で「発達応援スクールA+」の施設運営をされている一般社団法人ESPACE様にお話を伺いました。
児童発達支援事業所として二次障害を防ぎたいという思いを持つきっかけや、日々子ども達と向き合う上で大切にしていることなどを存分にお話して頂きました。
一般社団法人ESPACE様HP(https://espacea8888.wixsite.com/mysite-1)
療育と保護者への支援を両立するために
インタビュアー(以下:イ)本日はいろいろとお伺いさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。初めに施設の概要について教えてください。
木下様(以下:木下)静岡県駿東郡の長泉町で、「発達応援スクールA+」という児童発達支援事業所を運営しています。
対象は2歳から未就学までの子で、<親子クラス><就園児クラス><個別クラス>と3つのクラスから選べます。その中でも<就園児クラス>は午前と午後に分かれていて、午後のクラスは幼稚園や保育園に通いながら通所していただけようになっています。
イ)<就園児クラス>では主に何をされているのですか?
木下)基本的なプログラムとしては粗大な運動と微細な運動を取り入れて、体の基盤作りに重点を置いています。体を育てるということを意識してサーキットを組んだり、発達体操やリズム体操を取り入れたり、あとは制作や感触遊びをしたりですね。夏になると水遊びを行うこともあります。
夏場とはいえ水遊びをした後はどうしても体が冷えてしまいますので、遊んだ後はホットタオルで温め、リラックスさせるなど、諸々に感覚へ刺激を入れることを意識して取り入れています。
イ)いろいろ工夫されているのですね。施設の写真を拝見した際に、大きなトランポリンが印象的でした。
木下)はい、中古ですが思い切って購入しました。施設の特色を作りたいと考えていて、いろいろな方にアドバイスをいただいた中から今の自分に出来ることを模索しており、トランポリンはそのひとつですね。
それに、トランポリンは感覚的なところに刺激を入れるというこちらの目的に合致していたのと、大きくてインパクトがあれば子ども達が喜ぶかなと思ったので。
イ)やはり子ども達は喜んだりはしゃいだりしていましたか?
木下)そうですね。大きいので常設できなくて使うたびに空気を入れて膨らますのですが、空気を入れるときの音が大きくてびっくりする子もいます。大きな音が苦手な子は耳をふさいだりしますけど、トランポリンが楽しいからちゃんと待っていてくれるんです。完成した時に子ども達の笑顔が見られるのがいいですよね。
トランポリン自体が大きいので、見学に来た小さな子だと初めは怖がることもありますが、周りの子がやっているのを見てちょっと乗ってみたりして。徐々に慣れて遊んでくれるようになります。
イ)そうやって仲間が出来て療育していけるのは良いですね。
木下)そうですね。今まであったトランポリンは小さかったので、1人ずつしか飛べなかったけれど、あれだけ大きいとみんなで飛べるので良いですね。みんなで笑いながら遊んでくれています。
イ) 個別クラスとはどのようなクラスですか?
木下)個別クラスは、教材を使いながらその子に合わせてアセスメントを行い、その子が得意なこと、苦手なことのデータを取って、見えてきたところにアプローチしていくクラスです。基本的に知育教室をイメージしてもらうと分かりやすいかなと思います。
今ですと年中さんの子が多いので、“ひらがな”とか“色”とか“数”を具体物や教材を使って伝えながら、その子の力を伸ばしています。あとは“反対語の概念”だったり、“名詞の理解”だったり、“時計の理解”なんかも。
もう少し低年齢の子であれば、体を動かしたりマッサージをしたりすることで感覚に刺激を入れたりとか。
「HUG」の脳バランサーキッズも活用させてもらっていますよ。せっかくデータをプリントアウトできるので、今後は保護者の方に渡していきたいと考えているところです。
イ)活用していただきありがとうございます。親子クラスは保護者の方も一緒に受けるのですね。
木下)はい。お母さんともしっかりとコミュニケーションを取りたいと考えて出来たクラスです。当施設では送迎をしていないので、いかにして保護者の方とお話する時間を作るかが重要だなと感じています。お母さんがお迎えに来た際に玄関先で相談事や振り返りなど会話させてもらうとか。
以前に、お母さんのほうから「子どもとの関わり方とか声の掛け方を勉強したいけれど、何か参考になる本はありますか?」と相談されたことがありました。
施設には本がたくさんあるので、その中からおすすめの本を貸したのですが、後日「実践してみたら子どもがすごく変わりました!」とすごく喜んでいただいたのです。「お父さんがまだ読めていないのでもう少し貸してほしい」、とご夫婦で共有してくれて、とても嬉しかったですね。やはり顔を合わせて関係性を作っていくことが大事だなと、日々感じています。
今はコロナの時期でなかなか難しいですが、今後はもっとお母さん同士で相談したり情報交換したりできるような繋がりを作れる場も設けていきたいです。
早期療育によって“二次障害”を防ぎたい
イ)「発達応援スクールA+」をどういう経緯で施設を立ち上げたのか、きっかけを教えてください。
木下)私はもともと横浜の出身で、以前に地元にある入所更生施設で勤めていたことがあります。
成人の方の生活の場で支援を行っていたのですが、そこには二次障害を抱える方が結構いらっしゃいました。利用者の方の思いを受け止めつつスタッフ一丸となって支援している中で、だんだんと落ち着いて生活ができるくらいまで変化していくのを目の当たりにして、「大人になっていても支援で変わってくれるのか!」と感銘を受けました。
あと、その施設は「親の会」が募金をして開設したという経緯もあり、保護者の方は「親亡き後この子たちはどうして生きていったらいいのか」という心配を強く抱えていたのです。
実際に保護者の方とお話させていただき、今よりももっと差別偏見の多く情報もない中で、発達支援の必要な障がいがあると言われている我が子を育てなければならなかったという苦労を感じたときに、やはり保護者の方に対する支援も非常に重要なのだと思いました。幼児期からそういう環境を作ってあげることが大切だと考え、その後解職して療育センターに転職しました。そこで療育や保護者の方への支援を学んだのです。
イ)そうして児童発達支援に進んだのですね。
木下)はい。しかしその後に結婚などのプライベートな事情から、現在の静岡県に引っ越してきました。
自分の子どもの手が離れたのを機に、これから何をしようかと自問自答したら「やっぱり福祉の仕事に戻りたい」と思い、放課後等デイサービスの施設でまた働き始めたのです。
ですが、そのタイミングで私の母が亡くなりまして。それが自分の人生を考えるきっかけとなりました。
いずれ死んでしまうのだから限りある時間を有効に使いたい、本当に自分がやりたいことを精一杯やっていきたい、という思いが強くなったことが「発達応援スクールA+」を立ち上げたきっかけです。
ここの長泉町にはあまり児童発達支援施設がないので、じゃあ自分が作りたいな、と。
イ)確かにそちらの地域には児童発達支援施設が少ないですよね。以前は大人の方を支援していたということですが、現在の児童発達支援との違いや共通点など何か感じることはありますか?
木下)ずいぶん昔のことなので忘れてしまっていることも多いですが、私の中の原点になっている「いくつになっても人は変われる」ということが共通点としてありますね。
二次障害を抱えていると、精神障害のようになってしまい、物を投げたり色々なことが気になったりすることがあります。私が働いていた当時はそうした行動が頻繁で部屋に何も置けなかった方がいましたが、数年経って帰省した際に前施設へ伺ったらソファやタンスやCDデッキが置いてあって、なんか当たり前の女性の部屋になっていたんです。
それを見たときにすごく嬉しかったというか、感動したというか。支援が継続されていくことで、大人でもここまで変われるんだっていうことに、とても可能性を感じました。
ただやはり幼児期の柔軟性といいますか、子どもは発達段階なのでそこのスパンが短期で変わってくれるというのはありますね。成人になると時間がかかるのは事実です。子どものほうがより早く支援を吸収して伸びてくれるので、そこは違いがあるかもしれません。
声掛けに関しても、否定され続けるとやはり自己否定感が育ってしまいます。そこを修正していくよりは、初めから肯定的な言葉を受けて育っていくほうが早いに決まっています。ただ、変わる可能性は何時でもあるって思わせてくれたのは、そこで得た経験かなと。
なので、「脳は9歳までで決まる」とか色々な情報を鵜呑みにして、「うちの子はもうだめだ」とか「今からやっても遅い」とか思っている保護者の方がいらっしゃったら、年齢は関係ないということを強く伝えていきたいですね。
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